浄水の空中開廊

2015.11.30 | 物件ラボ

今回はいよいよ、浄水プロジェクトについて。現地はまだ工事中なので、パースや模型をもとにご紹介します。
※前回の記事をご覧になっていない方は、ぜひこちらから。

text:春口

名称:Loggia浄水 / ロッジア浄水
浄水通りのすぐ近く、福岡市中央区薬院4丁目にて現在建築中。2016年2月に完成予定。

6階建の鉄筋コンクリート造。間口の狭い奥行きのある敷地に計画された、平面的には長方形の建物で、ファサード(正面)は東側隣地の戸建住宅に面し、北側の横手方向が接道している。立体的にはやや横長の長方形で、1階にピロティ(半屋外空間)部分に囲われたテナントが一区画。張り出した部分の外壁はコンクリート打ち放し。これに対して引いた位置に立ち上がる外壁はマットな黒塗装。バルコニーの手すり部分は木紛が練り込まれた樹脂製のウッド調パネル。ピロティと打ち放しのスクエアなラインが相まって宙に浮いた感じのする軽やかなフォルムである。

このピロティは通りから建物エントランスまでのアプローチの役目を果たしており、奥のスペースは駐車場になる。2階から上が住宅。ワンフロア2戸、計10戸といった構成。建物の中心にエレベーターと吹き抜けの階段があり、それより左右に住戸が振り分けられた、シンメトリー且つ独立性の高い計画。

各住戸は奥行きよりも横幅が大きく取られたワイドスパン。リビングの開口部を挟んで2ヶ所、玄関側と浴室側それぞれに独立したバルコニーが設けられている。フロア全体を正面から見ると、4つのバルコニーと3つの開口部(中央が共用廊下部分)が交互に連続するデザインである。

※最上階、玄関側のバルコニー

玄関側の4畳ほどのバルコニーがアプローチの役目を果たしている。つまり、共用廊下から前庭のようなバルコニーを経由して住戸に出入りするシステムである。ちなみにこのバルコニー、共用廊下に面するドアを施錠できるし共用部や隣の区画からは見えないように壁が立てられているので、プライバシーが十分に確保されている。更に頭上には上階のバルコニーが庇のように張り出し、足元にはウッドデッキが敷き詰められているため、実用的な中間領域になるだろう。気候の良い頃は玄関ドアを開け放ち、広めの玄関土間と繋げて使っても面白い。4階以上は見晴らしもきっと良い。自転車や植物を置いたり、趣味の空間など、小振りながら色々と想像が掻き立てられるフリースペースだ。
また、物件名につけられた「ロッジア」には「開廊」という意味が。これはイタリアで生まれた建築意匠の一種で、ファサード側に設ける外に向かって開かれた廊下のことなのだが、ここの共用通路からバルコニーにかけての部分が「ロッジア」に見立てられている。2階から上の空中に位置するので、いわば空中開廊。5層の空中開廊が積み重なる建築…完成後、街の風景の中、どのように存在するのだろうか?

ところで先日のインタビューの後、日をあらてめて三浦さんがこれまでに手がけた物件を見て回ったのだが、その時に感じたのが街と建築との関係性であった。点ではなく、引いて風景としてみたときに、建築当時の建築家の想いに触れられた気がしたのだ。しかし残念なことに、ロッジア浄水と街との関係についてどのような考えをお持ちなのか、インタビュー時に質問できていなかった。だから今回は、この記事を書く前に建築現場の周辺、薬院4丁目付近を歩いてみることにした。

浄水通りの東側に位置する薬院4丁目。弊社は薬院1丁目にあるので馴染のあるエリアなのだが、あらためて街を見渡したら気付くことがあった。

 

まず、空が広い。背の高いビルばかりでなく、ゆったりとした邸宅や、平面の駐車場がまだ所々に残っている。建物の色は概ねベージュやクリーム色、茶色などの優しい色合い。また、街路樹や住宅の植栽など、グリーンがふんだんにある。ピカピカした建築は少なく、適度に経年変化した大小の建物がレイヤーのように重なって連なり、景色に奥行きがある…商業地のすぐ側なのに、広い空の下、遠景を望めるのがこのエリアの特徴であると気付いた。同じ薬院でも、無機質な色味のビルが建ち並び、空が狭く閉じた印象の2丁目とは対照的な風景である。こんな薬院4丁目の街にロッジア浄水は計画され、現在建築工事が進められている。

初めて、間口が狭く奥行きのあるここの敷地を見た時、正面から全体の姿を確認できないのは実に残念だと感じたのだが、周辺を歩いている間に自然とその考えが変化した。チラリと見える感じも良いのではないかと。

建物をファサード側(東側)の遠方より望む。

まだ、シートがかけられた状態。ゆったりとした邸宅の背後に建物の上部、3層分位が姿を見せている。薬院4丁目の風景の中に差し込まれた新しいピースといった印象。お披露目前の状態だ。シートが外れた状態だとどんな風に見えるのだろう。想像が膨らむ。

建物に近づくにつれ、上部は戸建の陰に隠れていき、その代り接道側の面、つまり向かって右側部分が徐々に姿を現し始める。完成後はきっと、ワクワクしながらこの道を歩くことになる。

 

接道部分から見るとこんな感じ。奥行きのある敷地。

ファサードが通りに面していれば、つまり建物が通りに対して並行して建っていれば、そのデザインを一目瞭然に認識できて良いのだが、逆に単刀直入すぎるという見方も。ところが今回の計画のように、通りから直角に、引き込むように建築されていると、奥ゆかしさが生じる…現地でそんなことを思いながら、アプローチになるであろうスペースを眺めていると、三浦さんの他の建築随所に見られた路地的空間が想起された。更にそのまま想像の中で、建物エントランスをくぐり、吹き抜けの階段を上り、積み上がっていくロッジアをイメージした時、そこはまるで空中へいざなう路地であった。その先にあるのは広がりのある街並みを見渡す空中開廊…

気になる住戸は50㎡クラスの1LDK。リビングと寝室を分けるスライドドアを全開にすれば大きなワンルームとしても使える。内装はタイルや塗装、コンクリ打ち放しの組み合わせからなる素材感のある仕上げ。随所に建築家の考えが反映された空間。

以上。

住戸の詳細に関しては、間もなくモデルルームとして一部屋先に完成するので、そこが出来次第撮影し、賃料等の条件と併せて紹介したいと思います。12月下旬~1月上旬ごろになる予定。もうしばらくお待ちください。