プロジェクトメンバーインタビュー

プロジェクトメンバーの集合写真で締めくくった前回(今までの記事はこちら)。

撮影したのは昨年の暮れだったので、コートがなくても暖かかったんですが、最近はめっきり寒くなってきたなと思いきや、昨日一昨日はなんと記録的な寒波が到来。
福岡の街景色が一変し、まるで雪国のようになりました。

波佐見の冬はめちゃくちゃ寒いそうなので、今から次回来訪がどきどきです。。

さて、今回は宣言通り、メンバーへのインタビューを、座談会形式にてお届けします。

(左から波佐見町役場の朝長さん、地域おこし協力隊の村上さん、地元不動産会社の浅田さん、ひかり生活デザインの石田と春口)

お話しを伺ったのは、プロジェクトの発起人、地域おこし協力隊の村上さんと、地元不動産会社にお勤めの浅田さん

ときおり、笑いや驚き、共感などが生まれる賑やかなインタビューとなりました。

年の近い、けれど正反対の特徴を持つ2人の目線を通して、波佐見の昔と今、そしてこれからの可能性を感じて頂ければと思います。

 

もくじ

・移住するまでとその経緯
・地域の気質と関わり方
・地元者から見た、移住者と波佐見の変容
・移住市場に乗れない理由
・移住者だから気づいた、“この町ならでは”
・情報発信と持続可能な仕組みづくり
・地元者から見る、町の未来と可能性
・町にあった仕事づくり。のきっかけとして

 


移住するまでとその経緯


石田:今日はよろしくお願いします。

二人:よろしくお願いします。

石田:まず、村上さんが波佐見に移住するきっかけや、経緯を教えて頂けますか。

村上:ここに来る前は、デザイン事務所でフリーペーパーの営業や編集、それから旅行雑誌を作る仕事なんかをしてたんです。取材したり記事を書いたり。

石田:今みたいに、企画して情報を編集・発信するということを、元々やられていたんですね。

村上:そうですね。面白く見せることが好きなんです(笑)取材していく中で、ものづくりをする職人さんや、町おこしをする人たちの姿を見て、発信する側から作る側になってみたいと徐々に思い出して。30歳を機にこれからを考えた時、動くならタイミングは今かもしれないな、と。他の地域にも住んでみたかったですし。

石田:なんで波佐見だったんですか?

村上:リクナビに地域おこし協力隊の募集があって。ものづくりだし、器にすごく興味があったからいいな、って。実は唐津も同時期に募集していたので応募したんですが、波佐見の方が先に面接になって内定が出たので決めました。本当に、タイミングという感じです。それで退社しました。

春口:結構冒険ですね(笑)周りの反応はどうでした?

村上:あんまり驚きはなく、らしいね、って感じでした(笑)

一同:(笑)

石田:波佐見には、地域おこし協力隊で来たのが始めてだったんですか?

村上:移住する5、6年前に、母と中尾山(なかおやま)に来たことがありました。窯元さんにも良くしてもらって、良いところだなとは思っていたんですが、その時は移住までは考えていませんでした

石田:一度来たことがあるとはいえ、移住への葛藤などはありましたか?

村上:知らない場所に住むというのはすごく不安で、ぎりぎりまで悩みました。受け入れられないって話もあるし、そうなったりするのかなと不安だったけど…まあ、しょうがない。任期が3年だから、もし本当にダメだったら帰ればいいんだから、と。

一同:(笑)

村上:起業したいという思いもあって。でも、いきなり知らない土地では難しいから、任期の3年で人間関係を作れたらという考えもありました。

 


地域の気質と関わり方


石田:実際に移住してみてどうでしたか?

村上:去年の7月からなんで、もうすぐ1年半なんですが、寂しさを感じたことがないですね。

石田:地域の人と関わりを作れているということですか?

村上:そうですね。お家に呼んでご飯をご馳走してくれたり、野菜を頂いたり。役場に勤めているので、町の人も安心して話せるというのはあったと思います。色々、会合や会議に呼ばれたりする中で人脈も出来ていって。

石田:なるほど。村上さんはわたしたちから見ても地域の人と上手くお付き合いできているように見えますが、ぶっちゃけ、明るく、コミュニケーション能力の高い村上さんだからじゃないですか?(笑)

一同:(笑)

浅田:そうかもしれないですね。村上さんはすって入って来ましたから。

村上:いえいえ、違いますよ(笑)

石田:他の人でも大丈夫ですか?

村上:大丈夫だと思いますよ(笑)元々の地域性として、閉鎖的ではなく受け入れる気質なんだと思います。移住者に抵抗がないというか。外から焼き物の修行に来て、そのまま住むというのが昔からある町だから、って、窯業関係の人たちからは結構聞きます。

一同:なるほど。

石田:では、人間関係からみた移住のハードルは低い方ですか?

村上:だと思います。みなさん年齢関わらず、あまり壁なく仲良くしてくれます。その中で、アイデアを出したり必要な人選をしていくところにわたしの価値があるのかな、と。

石田:村上さんはアイデアマンですよね。

一同:うんうん。

村上:でも、あれしたい、これしたいって言えば言うほど自分の首が締まっていくという(笑)

一同:(笑)

村上:そこをこんな風に(浅田さんやひかりに)入ってもらったり、色んな人に助けてもらったり。そういうのもこっちに来てから覚えた感じです。今まで仕事をしていると、全部自分がやりたい、やらなきゃって思ってたけど、こっちではこれはこの人にお願いしよう、この分野は専門家に入ってもらおうとか。甘え上手になりました(笑)

一同:へぇ〜。

石田:では反対に、苦労したところはありますか?

村上:地域おこし協力隊で入ったので、わたしたちは隊員として注目されがちなんですが、主役は絶対町の人に、っていうのはわたしの中で一番気をつけているところで。わたしが前に出るんじゃなくて、町の人たちが出るきっかけを作るっていうのを、来た時から大事にしています。私がいないと回らないことはあまりやりたくない。町の人たちを押し上げるのがわたしの仕事かな、って。でも、そこに至るまでが結構難しい。自分が前に立たないと人は付いてこないし、企画したから「はい、どうぞ」って投げても伝わらない。自分が引っ張りながら、でも主役は町の人というところを工夫しないといけない。空き工房バンクも、事業費がなくなったときに終わらず、上手く運営していく方法を模索しないといけないと思っています。

 


地元者から見た、移住者と波佐見の変容


石田:浅田さんは地元の方として、移住された方をどのように見ていますか?

浅田:波佐見は結構衰退していたので…自分が福岡にいた10年くらい前は、ぼとぼと陶器の会社が潰れたりして。最近は若い移住者が盛り上げているということで、徐々に町内でも話題にもなっています。

春口:盛り上がりを感じ始めたのはどれくらい前ですか?

浅田:それこそ、村上さんが来た2年前くらいからかな。

春口:その前はどうだったんですか?

村上:わたしが来た5、6年前は、まだ「波佐見焼!」って感じは全然なくて。西の原を見て面白いなって。そこから少しずつみんなの目に止まるようになった感じじゃないでしょうか。

浅田:そうそう、それを面白いと思う人が町内にはいなくて、外の人が面白いって言ってくれたから

村上:最初は焼き物が好きなコアなお客さんが注目し出したんですが、最近はもっと一般的な人たちも来るような感じになりました。

石田:年に一度、GWに開催される陶器市も有名ですよね。もう、どれくらいになるんですか?

村上:今年で(2015年)57回目です。

石田:そんなに。

村上:前は有田陶器市がメインで、波佐見はついでにってくらいでしたが、最近は波佐見を先に見に来る人もいて。

浅田:年々来場者が増えています。多分、今年が過去最高でした。

 


移住市場に乗れない理由


石田:では、移住希望者も増えている感じですか?

二人:うーん…。

村上:東京の移住フェアとかに行くと、九州ブースで長崎って実はあんまり人気がないんです。熊本や大分が多かったんですけど、熊本に並んでたご夫婦なんかに「少し、波佐見の話を聞いてくれませんか」って声をかけたら、「自分たちは農業を考えているからいいです」って言われるんですよね。それで、「そっかー」と。阿蘇とか九重とか、大自然のイメージがあるエリアに今から波佐見が農業で勝とうっていうのは結構難しいんだな、と。

一同:なるほど。

村上:波佐見は長崎で唯一海がない地域でもあるので、漁師になりませんかも無理だし。

一同:(笑)

村上:それを考えると、発表の場もあるものづくりの町っていうのが一番、他の地域じゃできないことだと思うんです。

春口:マーケティング的な考えですね。

村上:でも、今はあまり焼き物以外の業種は入ってきていないので…もっと居ていいはずなんですけど。家具職人とか靴職人とか。

石田:その可能性も秘めているのが、空き工房を活用した空き工房バンクですね。

浅田:自分たちは空いている工房があることが当たり前すぎて、活用するという考えはなかったですね。

 


移住者だから気づいた、“この町ならでは”


石田:空き工房バンクの着想はどこからだったんですか?

村上:こっちに来た時、町のことを知る期間として、工房を巡ったり商社を訪問したり。窯元さんに話を聞きに行って情報発信なんかをしていたら、佐世保の陶芸家さんから、「波佐見に拠点を移したいんだけど、どこか場所はないですか?」って聞かれて。そういうニーズがあるんだなって知ったんです。一方、町の人と触れ合っていく内に、「跡継ぎがいない」とか「工房が空いている」という話しを聞くようになって。でもそれは地元の人だから知っている情報で、公開されていないので外の人が知るのは難しい。借りたいって言っている人がいて、空いている物件があるのに、そこがつながっていないから、じゃあつなげることをやってみようかな、と。

石田:空き工房を貸したいという声はあったんですか?

村上:貸すという考え自体があまりありませんでした。作業場だから住めないし、倉庫として使ってるし、お金出して借りる人がいるなんて思っていない。

石田:じゃあ、波佐見に来た当初から考えていた企画ではないんですね。

村上:そうですね。人脈ができる内に、少しずつそういう質問を受けるようになって、何か移住定住に関わる事業をやってみたいと思って。空き家バンクは他もしていることだから、焼き物のまちならではのことを企画してみようかと。移住フェアの経験で、農業のイメージで太刀打ちは出来ないと思っていたので、じゃあ、空き工房を取り上げてみようと考えました。

 


情報発信と持続可能な仕組みづくり


石田:そこからどうしたんですか?

村上:補助金をもらおうと思って、ある事業に応募しました。でもダメでした(笑)今考えたら、補助金をもらうための企画を考え過ぎてて、ユーザーのことは二の次になってました。だから、反対に落ちてよかったなと。

一同:なるほど。

村上:企画を立てていたことを朝長さんも知ってらしたので、それだったら役場でなんとか出来ないかと動いてくれて

一同:へぇ〜。

村上:最初の内容はほとんどなくなって、結果的にすごく自由度が増しました(笑)

石田:「空き工房を貸し借りする仕組みを作りたいのでアドバイスが欲しい」という村上さんからの問い合わせから、弊社が関わらせてもらうことになりましたが、波佐見町には仲介専門の不動産会社がないと聞いて驚きました。

浅田:川棚には1件あるんですが…ほとんど建設業と兼業です。

石田:浅田さんのところもそうですね。

浅田:うちも、自分が勤め始めた4年前に賃貸の仲介部門が立ち上がりました。

石田:波佐見で家を借りたい場合、みなさんどうされているんでしょうか?

浅田:アパートはあるんですが、戸建住宅なんかは難しいですね…。

村上:その分、役場に問合せが来てるんだと思います。

一同:なるほど。

村上:福岡市内で家を探したいからって、福岡市役所に電話しないじゃないですか。それは情報が外に出ているから。役場に聞きに来るってことは、それだけ情報が出ていないってことですよね。

春口:事務局が置かれるDIY工房には、モデルルームとしての役割だけではなく、そういう情報を発信する機能も持たせられたらいいですね。やっぱり、移住定住に結びつくような拠点がないと。

石田:実際に情報を求めている人に届く仕組みづくりをして行きたいですね。

村上:そうですね。冊子を作ったり、新聞を出したり…一軒だけじゃなくてこの次もリノベーションしていけたらなあ。

石田:そのためには、村上さんがおっしゃっていたように、空き工房バンクが持続する仕組みづくりが大事だと思います。今後の展望をどのように考えられていますか?

村上:物件数は限りがあるので、どんどん数を増やすという形ではなく、利用希望者が現れたときに、きちんとサポート出来る体制がずっと続くようにしたい、2、3年で終わらない内容にしたいです。

 


地元者から見る、町の未来と可能性


石田:浅田さんには、事務局が置かれるDIY工房をご紹介して頂いたというきっかけから、ボランティアで参加して頂いていますが、浅田さんの中で空き工房バンクはどんな位置づけですか?

村上:今はわたし以上に物件を見つけてきて下さったり。すごく助かっています。でも、利益が出ないままだと、浅田さんの徳が積まれるだけかもしれない。

一同:(笑)

浅田:一番はやっぱり、町を盛り上げるという気持ちがあります。それと、個人的な考えになるんですが、リノベーションやDIYに興味があったんです。今うちではリフォームをやっているんですが、今後は既存を活かすという方面も考えていかないとな、と。なので、プロジェクトに参加することで直接的な収益はないんですが、ノウハウを勉強させてもらえるというのもあって(笑)

石田:浅田さんもデザインを勉強されてたんですよね。

浅田:はい、福岡で専門学校に通っていました。

春口:村上さんも浅田さんも、デザインつながりですね。

石田:ついでにうちも、ですね(笑)デザインという手法を、家造りにも取り入れたいということですか?

浅田:そうですね。これから、もっとそうして行かないといけないのかなと。

春口:じゃあ、浅田さんにとってもこのプロジェクトは、ラボのような、実験的なものですね。

浅田:そうですね。

春口:仕組みづくりもデザインですよね。例えば、事業費が終了した後は浅田さんが借り上げて、若いクリエーターが安くシェアできるようにしたり、そこに浅田さんのサテライトオフィスも置いてみたり。

浅田:紹介は得意分野なので、町外から職や家を探されて来た方のための情報発信地はできるのかな、と思います。

村上:そうですね。家の情報があって、求人情報があって、職場を作りたい人には空き工房の情報があって。

春口:移住定住にプラスになることはなんでも紹介していいと思います。食べ物とかも。そういう不動産って中々ないから、それを始めたら話題になりますよ。あそこに行けば職も探せるし、泊まるところも住むところも探せるしって。

浅田:それ、いいですね。

一同:(笑)

 


町にあった仕事づくり。のきっかけとして


石田:最後にお二人から見た今の波佐見の、「ここが変わればもっと素敵になるのに」というところを教えて下さい。

村上:家と仕事ですね。

浅田:盛り上がりつつありますが、何か、起爆剤のようなものが足りない気がしています。イベントで人を呼んでも、どうしてもその日だけになってしまう。村上さんの「仕事」というのには本当に同感です。

村上:知名度は、正直なところこれ以上上がらなくても良いと思います。それよりも、今住みたいと思っていたり、こっちで仕事をしたいと思っている人たちの受け皿が一番足りてないな、と。

春口:仕事というのは、雇用ということですか?

村上:雇用はあるにはあります。でも、それは外の人が望んでいるような仕事ではないかもしれない。波佐見に移住するなら、やっぱりものづくりだったり田舎ならではの仕事をしたいというのがあると思うので。あってもあまり知られていないというのもあります。ここでもやはり、情報発信が不足しています。

石田:焼き物関係の仕事はないんですか?

村上:募集は多いですが、お給料は多くありません。やっぱり、仕事がないと住めないので…。

春口:その起爆剤の一つが空き家工房バンクですね。

村上:波佐見に来るんだったら、カフェやゲストハウスをしたいとか、ものづくりをしたいとか。特別なこと、町の雰囲気にあったことをやりたいと考えて来られると思うので。それなら、ものづくりをしたい人が波佐見で起業するという道はないだろうかと。

春口:町にあった仕事づくりのきっかけになれば。それがないと、住みたくても遊びに来るで終わってしまいます

石田:このプロジェクトは、空き工房から仕事を考えるのではなく、移住を考えると仕事が必要で、その仕事を考えた結果空き工房という手段が生まれた、というのが特徴的なところだと思います。

一同:そうですね。

石田:今日は長時間、本当にありがとうございました。DIY工房のお披露目に向けて、ホームページの公開やDIYワークショップなどもありますが、引き続きよろしくお願いします。

一同:よろしくお願いします。

 

 (2015年12月実施)

 


次回予告


いかがでしたでしょうか。
波佐見のことを知っている方は今までとは違った側面が見え、知らなかった方は波佐見という町が身近に感じられたのではないでしょうか。
また、このプロジェクトがどれくらい各メンバーの熱い気持ちで進められてきたかもお分かり頂けたと思います(笑)

ほぼ見知らぬ土地に職を辞して飛び込み、アイデアと行動力で周りを巻き込んでプロジェクトを立ち上げた村上さん。
未来を見据え、「今後に必要な勉強」と無報酬でプロジェクトに関わって下さり、今や空き工房探しに誰よりも力を発揮する浅田さん。
小さな炎を消すことなく、事業の予算取りに尽力し背中を支えてくれた朝長さん。

そして、わたしたちひかり生活デザインは「そんな彼らと一緒に仕事がしたい!」
という気持ちから、なんと創業以来初めてとなる、県外プロジェクトをスタートさせることにしたのでした。

波佐見町プロジェクトは、単純に空き工房を物件化し、貸し借りできる状態にすればOK。というものではありません。
空き工房の活用はあくまで手段であり、目的は「波佐見で仕事場を持ちたい」「波佐見に住みたい」と考える人たちの受け皿をつくり、広げることです。

この考えに関心がある方、賛同してくださる方、そして波佐見に興味が出てきた方、
ぜひ一度、波佐見に遊びにきて下さい。

というのも、実は…3月の始めにツアーを開催することにしました!

3月5日〜6日の一泊二日で、プロジェクトメンバーが空き工房と波佐見町をご案内します。

詳細は次回の記事でお知らせ予定。

どうぞ、お楽しみに!

text/いしだ